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山の頂上から見える星空は、格別に綺麗だった。手を伸ばせば届きそうな気がする。両手を広げれば受け止めることができそうな気がする。
だけど実際は届くこともなく、受け止めることもできない。銀河は、遠くて広い。目が眩みそうなほどだ。
私達はベンチに腰掛けながら、暫くの間無言で空を見つめていた。
「あれは、銀河鉄道かな」
宗一くんが指を差した。天の川が空を流れている。小さく光る点が無数に集まり、まるで銀色の川のように見えた。
「きっとそうだよ。私達を見守りながら、走ってる」
鉄道が汽笛を鳴らして走る姿が目に浮かんだ。あの列車に、きっと宗一くんの両親が乗っている。宗一くんには私がついていますよ。心の中で二人にそう報告した。
「ねえ、真緒」
宗一くんが上半身を捻って私を正面から見つめ、両手を取って握りしめてきた。何だろうと身構えてしまう。照れ屋の宗一くんが、自分から真正面に向かうということは珍しい。
「どうしたの、宗一くん」
彼はその態勢のまま、動かなくなった。彼の瞳には星が溶けている。『カムパネルラ』の置時計のようだと思った。光る星の中に、私の姿が浮かんでいる。
「寒くなった? 帰る?」
彼が手を握っているのは、私で暖を取っているからだと思ったのだ。見当違いだったのか、違うよと珍しく大きな声で彼は否定した。じゃあ一体何なのだろう。早く言ってほしい。寒いのは私の方だったのだ。温かいのは、繋がれている両手だけ。
「もし、真緒が良かったらだけど」
彼はそこで一旦切って、唾をごくりと飲んだ。
その時私は彼の手が震えていることに気付いた。繋いだ手から、私の胸にまで、その振動が伝わってくる。まさかとは思ったけれど、目も潤んでいるようだ。唇を噛み、何やら俯いて考え出した。
数学科の悪い癖だ。すぐに理屈で処理しようとする。何を言おうとしているのかわからないが、こういう時は勢いも大事なのだ。
「言って、宗一くん」
私が促すと、宗一くんは意を決したように顔を上げた。
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