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暑さと湿気でいっぱいの部屋の中、パパがピタゴラスの定理を教えようかと言ってきた。それは中学三年生で習うはずだから結構ですと言って丁重に断った。
数学はあまり好きじゃないし、今は宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』を読むのに忙しい。目の前で本を開いて読んでいるのに、そんなこともわからないのだろうか。パパは記憶力がいいし、知識もたくさん持っているけれど、人の気持ちに鈍感だ。
パパは「そうか、直はピタゴラスよりフェルマーがいいかもな」と意味のわからないことを言って、大きくて透明のグラスに入った麦茶を気まずそうに一口飲んだ。
得意な数学の話をしたい気持ちはわかるけれど、私としては小説の一つでも読んで、それについて感想を言い合う方がずっと楽しいと思う。
数学は感情の豊かさがないし、理屈ばかりで、つまらない。
『銀河鉄道の夜』は、マイちゃんとの読書感想会での課題図書だ。お互い読み終えたら、感想を言い合うことになっている。
マイちゃんは、本名を園田舞といって、私が小学校五・六年生の時に担任をしていた先生だ。私は今年中学校に進学したけれど、今でもずっと読書友達として定期的に会っている。月に一度読書感想会を、マイちゃんの小さな1Kのアパートでやるのだ。
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