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僕らは向かい合い、指輪を交換した。
北極星みたいに輝く金色の指輪。
誓いのキスは、少し照れ臭い。
拍手の渦に、銀河を感じる。
僕は大分、真緒に感化されたんだろう。
彼女に出会うまでは、空を見上げる習慣などなかった。
数学者の父親の背中を追って、机に向かう毎日。
頭の中にあるのは、数字と記号と、それらを美しくまとめる公式だけ。
空がこんなに広くて美しいことを、それまで知らなかった。
星の輝きが心を満たすことなど、考えたこともなかった。
夜の闇が温かいなんて、思ったこともなかった。
全て、真緒が教えてくれた。
歓談の途中、直と細道君が魔方陣の問題を配り、早く解けた人に景品をあげるという余興をしてくれた。
簡単な一桁の数字の入った四×四マスの問題。みんなの悩む声が上がり、それなりに盛り上がった。僕には少し、簡単すぎたけれど。
『カムパネルラ』のマスターがウエディングケーキを出してくれる。大きな長方形のケーキ。三十センチ×四十センチぐらいか。丁度日誌ぐらいの大きさ。
二人で入刀する。
この中に、玉子はいくつ入っているんだろうか。
「えー、宴もたけわなではございますが」
細道君が言って、「タケナワ」だと直に言い換えられている。笑い声が起きた。細道君はちょっと間違えただけだしと拗ねている。それでまた、笑い声。
「俺と尾崎直から、二人へのプレゼントがあります」
気を取り直して言った細道君の声が途切れた瞬間、店の中が真っ暗になった。隣で舞の不安がる声。僕は彼女の手を探り当て、握りしめる。
握り返ってくる、手。
温かい。
彼女を見ると、彼女も僕を見ていた。
彼女の、弱さと強さを宿す、瞳。
なぜそれが見えるのだろう。疑問を解くべく頭が回転する。反射のようなものだ。
なぜ。なぜ。答えがないことだってあるのに。探し続けることこそ、生きることだというのに。
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