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僕は見上げる。天井に、無数の光の粒が浮かんでいた。
「綺麗」
舞のはしゃぐ声。他のみんなも、歓声を上げている。
小さな、夜空。
手作りだろうか。それとも市販のものだろうか。北斗七星や夏の大三角やカシオペア座の位置まで正確に作ってある。大したものだ。
「見て、あそこ」
舞が指差した先を見る。
二匹の、大きな金魚。
その周りには、小さな金魚が数匹。
やっぱり細道君と直が作ってくれたのだろう。忙しかったろうに。どれだけ大変だっただろうか。不覚にも、涙ぐみそうになる。
「いつか、空に、還る」
呟いた僕の声は、どうやら舞に聞かれずにすんだ。
式の前、細道君との話を思い出す。
直が、最近になってようやく数学を好きになったのだと言う。細道君と魔方陣の解き合いをしているのだそうだ。
「あいつ、先生と真緒さんが賭けをしてたの、知ってたらしいんス。数学か、文学か。どっちが、相手の方を好きか。それで、お母さんのことを、お母さんの想いを忘れてほしくなくて、忘れたくなくて、数学から遠ざかったんじゃないかって、言ってました」
第二弾、と細道君の声で、フロアの真ん中にスポットライトが当たる。
青く、銀色に光る、置時計が浮かびあがった。
星と、白い十字架。
夜空を走る、銀河鉄道。
―いつか、空に、還る。
僕はもう一度、心の中で呟いた。
「幸せに、なってよ」
真緒の声が、聞こえた。きっと君は、今も、今までもずっと、そしてこれからも、空から見守ってくれているんだろう。
僕は、舞の小さな手を、ぎゅっと、握りしめた。
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