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期末テスト最終日、最終科目である英語の問題を早々に解き終え、私はペンを置いて窓の外を眺めていた。
空は青く、白い雲がふわふわと浮かんでいる。綿あめみたいだなぁと思いながら見つめていると、夏祭りに行きたくなってきた。
そう、去年は雨で行けなかったのだ。私が、じゃない。マイちゃんとパパが、だ。二人をくっつけることを、私はまだ諦めていない。今年こそ二人をくっつけるために、夏祭り計画を実行しよう。
チャイムが鳴り、テスト用紙を後ろから前へ回収してくださいと先生が指示した。
テスト用紙を受け取ろうと手を伸ばすと、後ろの席の細道くんが用紙の角をほっぺたにつんつんしてきた。地味に痛いんだけど、やめてくれるかな。そう言うと、細道くんはふふんとなぜか勝ち誇ったように鼻で笑った。
「おい、お前の父ちゃん数学者なんだろ? オタクだな。お前はオタク娘だ」
私のパパは数学者ではないし、世間一般のイメージであるアニメ好きのオタクではない。だけど数学を教えている高校教師であり、普段見ている数学への愛情っぷりは数学オタクと呼んでも差し支えないと思った。だから特に否定はせず、無視をする。
こういう男子は、反応を返すと調子に乗るのだ。放っておくに限る。
ただ。私は思った。数学者ならオタクという細道くんの思考回路はよくわからない。オタクの娘でオタク娘というのも、安易すぎる。でも本に対しての愛情をオタクと呼ばれても仕方ないか。そう思ったので、やっぱり否定はしなかった。
「でも、それなら細道くんもオタクだよね」
野球部のエースと豪語している細道くんは、休憩時間にいつも友達と野球話をしている野球大好き少年だ。それを指して言ったのだけど、細道くんは「オタクじゃねえよっ」と怒ってそっぽを向いてしまった。
何なんだろう、一体。オタクは日本の文化で、恥ずべきことじゃないと思うんだけど。というか、自分が言われて嫌なことなら人に言わないでほしい。
まあいいか。細道くんから奪った用紙を前へ回す。テストは終わった。午前中で学校は終わりだ。
今日はマイちゃんの家で読書感想会をする。私はうきうきと足取り軽く、マイちゃんの1Kアパートへ向かった。
白い本棚が、私を待っている。
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