89人が本棚に入れています
本棚に追加
「いらっしゃい」
マイちゃんは黒縁の眼鏡をかけて私を迎えてくれた。仕事を早く終わらせ急いで帰ってきたのだろう。髪の毛が少し乱れている。それを直すこともしないのは、マイちゃんらしい。今自分の髪の毛がオウムのとさかみたいになっていることなんて、知りもしないんだろう。私も敢えて黙っていた。その方が面白いからだ。
四角くて白い、背の低いテーブルの前に私は腰を下ろした。
本棚の斜め前、私の特等席。
ここが一番よく本棚が見えて落ち着く。マイちゃんのお気に入りの、白くて大きな本棚。
見つめていると、あることに気付いた。新しく増えた本が、三冊ある。小説が二冊と、数学の本が一冊。
それを眺めていると、マイちゃんがカルピスを作って持ってきてくれた。原液たっぷりの、濃いめのカルピス。四角い氷が三つ入っていて、カラカラと音を立てている。
マイちゃんは自分用に氷が六つも入った麦茶を持っていた。コップから氷が溢れている。マイちゃんは「低血圧だから氷が好きなの」といつも言うけれど、なぜ低血圧だと氷が好きになるのかはわからない。本人もそこのところはよくわかっていないようだ。
「『銀河鉄道の夜』読んだよ」
マイちゃんは早速感想を言い始めた。星が煌めく描写が素敵とか、カムパネルラが死んでしまって悲しかったとか、熱くなりすぎて、麦茶の中の氷が全部溶けてしまった。氷好きはどこへいったのだろうと呆れる。
最初のコメントを投稿しよう!