1.北十字

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「いらっしゃい」  マイちゃんは黒縁の眼鏡をかけて私を迎えてくれた。仕事を早く終わらせ急いで帰ってきたのだろう。髪の毛が少し乱れている。それを直すこともしないのは、マイちゃんらしい。今自分の髪の毛がオウムのとさかみたいになっていることなんて、知りもしないんだろう。私も敢えて黙っていた。その方が面白いからだ。  四角くて白い、背の低いテーブルの前に私は腰を下ろした。 本棚の斜め前、私の特等席。 ここが一番よく本棚が見えて落ち着く。マイちゃんのお気に入りの、白くて大きな本棚。  見つめていると、あることに気付いた。新しく増えた本が、三冊ある。小説が二冊と、数学の本が一冊。 それを眺めていると、マイちゃんがカルピスを作って持ってきてくれた。原液たっぷりの、濃いめのカルピス。四角い氷が三つ入っていて、カラカラと音を立てている。 マイちゃんは自分用に氷が六つも入った麦茶を持っていた。コップから氷が溢れている。マイちゃんは「低血圧だから氷が好きなの」といつも言うけれど、なぜ低血圧だと氷が好きになるのかはわからない。本人もそこのところはよくわかっていないようだ。 「『銀河鉄道の夜』読んだよ」  マイちゃんは早速感想を言い始めた。星が煌めく描写が素敵とか、カムパネルラが死んでしまって悲しかったとか、熱くなりすぎて、麦茶の中の氷が全部溶けてしまった。氷好きはどこへいったのだろうと呆れる。
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