3.プリオシン海岸

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3.プリオシン海岸

 国語よりダンゼン数学の方がいい。数学はメイカイだ。解法は決まっているから、どのパターンかさえ読み解けば、あとは公式に則って数字を当てはめていけばいい。簡単で、単純。国語なんかよりよっぽど扱いやすい。誰が解いたって正解が同じになるのもいい。  そう思いながら、バットを振る。  部活が終わった。みんな思い思いに帰っていく。同級生の誰も自主練をやろうとしない。先輩でも残って練習するのはごく少数だ。三年生が引退する前は、ほとんど全員残っていたのに。  その少数の中に混じって、日が暮れて暗い中、音だけを頼りにバットを振る。俺のことを陰で笑っている奴らもいるらしい。熱血だとか、生真面目だとか、そんなことを言って。  熱血で生真面目で、何が悪いんだろう。褒め言葉じゃないか。結果を出してきたすごい人たちはみんな、熱血で生真面目で、少し孤独だったと思う。  どうだって良かった。誰に何と言われようと、そんなのは関係なかった。今年甲子園に行けなかった。それがただ、悔しかった。悔しいと思わない奴らの言うことなんか、金魚の餌にでもしておけばいい。 「お前だけだなぁ。やる気あんの」  夏の大会が終わり、三年生からキャプテンを引き継いだ二年生の藤山先輩が、俺の頭をバットの先でバシバシ叩いてきた。愛情表現なんだろうが、短髪頭を木魚みたいに叩かれるのは痛い。 「来年は絶対甲子園行くぞ」 「ウッス」
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