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ミラクル旋風
ピンクと紫を基調にした部屋。
白いレースのカーテンという目隠しの向こうから、冬を迎えそうな木漏れ日が斜めに入り込む両脇で、桑の実色、暗い赤紫色に銀の線で模様が描かれたカーテンは今は休憩というように、金と銀の糸が編み込まれた縄のタッセルに身を任せていた。
部屋の色調を引き締めるために、わざと強目の色を選んだマゼンダのソファー。薄紅藤のクッションが置かれ、ローテーブルには鮮緑、その名の通りの綺麗なレース編みのテーブルクロス。その上には、季節外れの赤やピンクのバラたちが小さな花瓶から優美と甘い香りを漂わせていた。
虚ろいという花々がもたれかかりというすうっと動きを作った向こう側で、なだらかな山脈という白い掛け布団がガサガサとふと動く。
「ん……」
シーツと布団の境界線から袖がスレほつれた両腕がにゅうっと押し上げられるように出て来て、布団の中からくぐもった声が伸びをする。
「ん~~!」
金の髪は枕の上だけでは足らず、あちこちに絡みもつれ、部屋の上品さとは程遠い様を見せていた。その持ち主ミヌアのどこかズレている感のある瞳は毛布の中で開けられたが、隙間から入り込む陽光で少し薄暗い視界のまま、肌触りのよさに全身を包まれながらほっとした。
(あぁ、全部夢だったんだ。
じゃあ、お財布の中身も変わっておらず……。
3日分の食費も浪費せず、ルシアン? も飲まなかった)
両手を胸の前で組み、目をそっと閉じ、宗教という日課をこなした。
(神様、今日という日を無事に迎えられたこと、感謝いたします)
だが、自分の体に熱っぽさを感じ、ミヌアは布団の中で首に手を当てる。
「のど乾いたなぁ。昨日、味の濃いものでも食べたっけ?」
布団を下へすっと引っ張り、顔を出したが、起きたばかりのぼやけた頭では視界も違和感も全て蚊帳の外で上半身だけでさっと起き上がり、寝ぼけている瞳のまま右へ向くと、そこにはサイドテーブルがあり、日差しにキラキラと乱反射する細長いものが置いてあった。
半分まぶたが閉じているベビーピンクの瞳にそれを曖昧に映す。
「あぁ~、こんなところに、ご親切に、誰かが水を置いてくれて、ありがとうございます」
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