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まどろみから抜けられないゆらゆらと揺れる体のまま、金の髪をともなって首をお辞儀という動きでザバッと前へ曲げ、何の躊躇もなく何の疑いもなく、ミネラルウォーターのペットボトルをパッとつかみ、パリッと蓋を開封。
「いただきます」
ゴクゴクと一気飲みし、口を手の甲で横向きに拭いた。
「はぁ~っ! 生き返る~~!」
人の体に必要不可欠な水。それを補充出来た至福を体中で感じながら、目を閉じたまま上を見上げる。
「水……ペットボトル……」
少しずつ正常に動き始めた頭で現実という違和感が輪郭を持ちながら、目をさっと開け、さっきより焦点のはっきりして来たベビーピンクの瞳には白いレースの布が天井から曲線を描くように落ちて来ており、ベッドに優しさというベールを作っていた。
「乙女の憧れ、天幕……」
貧乏生活。アパートの狭い部屋で何とか確保している布団という陣地。白い無機質で簡潔ないつも見慣れている天井とは違うものが広がり、空のペットボトルを手にしたまま右側へ顔を向けてゆくと、はるか遠くにマゼンダ色の四角いものがあり、
(あれは……ソファーに見える)
そのまま顔を右後ろへ向けてゆく。
(窓……)
開き窓が規則正しく並び、入り込む光も同じ場所から、桜色の絨毯をまるで春風に乗って、ひらひら止まる花びらのように引き立たせていたが、そんなことはミヌアにとってはどうでもよく。
(幾つあるのかな?)
自分の真後ろへ振り返って、ペットボトルを手のひらに当てながらカウント開始。
(1、2、3……)
ミヌアのどこかズレている感のあるベビーピンクの瞳は左奥へ移ってゆく。
(4、5、6、7、8……)
とうとう肉眼で確認出来なくなり、ミヌアが首を傾げると、ボサボサの金の髪が肩からどさっと落ちた。
(ん~……感覚からして10個はある、少なくともね)
ちょっとしたパーティー会場みたいな部屋を見渡し、白地に金で柔らかな模様を描いている天井を見上げ、はるか遠くにあるソファーをじっと見つめる。
「何十畳あるの、この部屋?」
それよりも極めて重要なことがあることに、かなり遅れながら気づいたミヌアは、慌てて布団から足を出し、シーツの上にスパンと正座し、部屋の窓を破壊するほどの大声で叫んだ!
「っていうか、ここ、どこっっっっ!?!?!?!?」
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