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十月吉日
「お父さーん、ハンカチ持った?
ティッシュとカメラも!」
玄関から、
母親譲りのお節介な大声が奥の和室まで響く。
声の主は、今年25になる一人娘の光希(ミツキ)だ。
「ったく、子供じゃねーんだから」
俺は、ぶつくさ言いながらも、
うっかり忘れていたカメラを鞄に押し込む。
着慣れないモーニング。
普段作業着しか着てないから、既に肩が凝りそうだ。
ネクタイを締めながら玄関に向かうと、
「そろそろ拓ちゃんが迎えに来るよ」
光希が靴べらを俺に差し出して、急かすように言う。
「俺、後からタクシーで行くって言ってんのに」
「いいじゃない、娘の門出の日だよ?
別々で行くのも味気ないでしょ」
「ちっとは感傷に浸させろよ」
「なにそれ、お父さんそんなタイプじゃないじゃん!」
光希は高い声で笑うと、俺の背中をバシバシ叩く。
……こういうとこ、本当、ソックリ。
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