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だからまずは名前を聞いてみようと思った。今の私には、それすらとても勇気のいることだったけど。 そして私が口を開こうとしたその瞬間、 ずちゅり、 男の子の右手が、私のお腹を貫いていた。 「………………え?」 痛みは無かった。私のお腹は水面みたいに波打っていた。そして男の子が何かを掴んで右手を抜いた時、私は致命的な喪失感を味わった。立っていられなくなって、崩れ落ちる。吐き気がする。 「いやぁ、助かった」 男の子の声を初めて聞いた。イメージ通りの素敵な声だった。 「すごい危険な能力だったからどうやって近づこうかと考えてたら、いきなり近づいてきて隙だらけになってびっくりしたよ」 私は吐き気が我慢できなくなって吐いた。口から黒いものが大量に出て、地面に落ちると煙になって消えた。 「君みたいな能力を持っている人間でも善良な人たちはいる。だけど君は性根が邪悪だった。やり過ぎたんだ」 私はずぶ濡れで男の子を見上げた。下からの角度もイケメンだった。 「君の名前を見た時、君にぴったりだと思ったよ。下次うるう。『うるう』の下を次にすると『うるえ』。カタカナで縦に書くと『(から)』。 そう、君は空っぽだ。君は自分の意思で何でも手に入れていたつもりだろうけどそれは違う。それは能力があるからついでにに手にしただけで、君の意思で成し遂げたことなんて何一つ無い。 多分、本当に人を好きになったことも無いんだろうね」 私は最後の言葉を否定したかったが、上手く口が動かなかった。 「でももう君に能力は使えない。今までに奪ったものも全部元に戻ってる。これから、本当の自分の力だけで生きる人生を送るんだ。 ……それじゃあ、もう会うことも無いだろうけど、元気で」 そして彼は去って行った。 私は水煙の中石階段を下って行く彼の背中を見ながら、彼にもう二度と会えないことが哀しくて泣いた。 雨がすべてを洗い流していた。
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