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「これを力と呼ぶべきものなのかは私には分からないな。さしずめ、周りの色に馴染めない出来損ないのカメレオンに神様がよこした皮肉なプレゼントじゃないかな。君、面白そうだったからさ、つついてみただけ。赤ん坊が何でも口に入れるのと同じ。それ以上の事はないよ。」
女性は私に背を受けて、旧式のカメラで何処かを覗いたままそう答えた。
「僕が面白そう?こんなありきたりな格好の僕が?」
僕は間髪入れずに切り返す。
「言ったでしょ。私の目に色がついて見えるのはカメラを通してみる人の描く夢だけ。」
女性は再び体をこちらへ向ける。相変わらず旧式のカメラを覗きこんだままである。
「だから、おかしな話だって言っているんだ。僕には夢なんてない。さっきもそう言ったでしょ。」
「ある、あなたにはある。私には見える、はっきりとした色が私には見えるよ。」
今度は女性が間を開けずにそう言いった。女性は旧式のカメラから手を放し、純粋無垢な子どものような瞳で僕のことを下から覗き込んだ。僕は傘の柄を強く握った。
数歩下がり、僕は自分の持っていた傘を女性に差し出した。
「何?」
女性は首をかしげた。
「あげます、あなたが雪に溶けてしまわないように。」
強引に傘を女性に渡し、僕は両手を上着のポケットに突っ込んで、女性に背を向けて一歩を踏み出した。歩道に積もった雪にくっきりとした足跡を付けて。
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