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雪降りしきる国道沿いの並木道を僕はスーツの上にトレンチコートを羽織り、傘をさして歩いてた。
目の前に飛び込んできた女性は傘もささず、艶やかな黒髪に雪帽子を乗せ、雪と同化して消えてしまいそうな白い手で旧式のカメラを構えていた。
「ねぇ。」
気になりつつも話しかける度胸はなく、通りすぎようとする僕をその女性が呼び止めた。予想だにしない事態に僕は動揺しつつも立ち止まり、女性の方へ振り返った。
「な、何でしょうか?...」
僕は驚きと緊張の入り混じる中、何とか口を動かした。
「この世界、君には何色に見える?」
「え?」
僕は女性の質問の意図が理解出来ず、聞き返すことしか出来なかった。
「この世界、君には何色に見える?」
「...。」
返答に困って僕が黙り込んでいると、女性はそのまま続けた。
「私にはね、全部灰色に見えるの。」
「は、はぁ...。」
やはり何が言いたいのか分からない。僕の返答は何でも良いらしい。女性はまた話し始めた。
「私、嫌いなんだ、この世界。誰かが決めた当たり前とか常識とかが敷き詰められててさ。皆そうしてきたんだから、皆が通る道だから、社会が大人が良しとするから...そんなことばっかり。だから、私の目にはぜーんぶ一色淡に見えるの。」
そう言いながら、女性は旧式のカメラのレンズをこちらに向けた。女性の一人語りは終わらない。
「でも、このカメラのレンズを通して世界を見るとね、色が付いて見えるモノがあるんだよ。君、何だと思う?」
カメラを覗きながら、女性は私に問いかけた。
「...何ですか?」
分かる訳もなく、僕はそのまま聞き返した。
「人の描く夢。」
カシャ。
僕の質問に答え、女性はそのまま旧式のカメラのシャッターを押した。籠ったシャッター音が行き交う車のエンジン音の中でひっそりと伝った。
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