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換気扇の音
昔から神経質な性質で、特に夜寝る時、家のどこかで換気扇が回っている音が耳障りで仕方がない。
だから毎晩、就寝時に家中の換気扇を消して回るのが俺の日課だ。
家に存在する換気扇は四つ。一階と二階にあるトイレにそれぞれ一つ、台所に一つ、そして風呂場に一つ。
それらを全部切って回り、家の中が静まり返ったのを確認して部屋に戻る。
今日もその通りにして部屋に戻り、ベッドに入ったのだが、真夜中にふと目が覚めた際、どこのかは判らないが換気扇が動いている音が聞こえてきた。
ヴィィィィ…あの、羽が回る時の独特の低音。それが耳に張り付いて眠れない。
いったい誰がつけたんだ。つけたならその場から離れる際には消せ。
そう憤った直後に気がついた。
今日は両親も弟も用事で外泊していて、この家にいるのは俺だけだ。
消し忘れたということは絶対ない。でも確かに音がする。
まさか泥棒でも入ったのか? いや、それならむしろ家人を起こさぬよう、物音は何一つ立てないように行動するだろう。
何かの弾みで作動してしまった。でも換気扇が誤作動するなんてことがあるのだろうか。
なんにしても、あの音が響ていたら眠れない。さっさと消してきて寝直そう。
面倒臭さを押し殺しながらベッドを後にする。換気扇の音が強くなったのはそれと同時だった。
さらにもう一ヶ所で換気扇が回り始めている?!
耳を澄ます。間違いない。確実に二つ動いている。でも、誰かがつけたとしても足音が聞こえなかった。
戸惑う俺を嘲笑うかのようにさらに別の換気扇が動き出す。その音が響いてくる。でも人が動いている足音はしない。俺以外人間はおらず、猫などの動物がいる訳でもないこの家の中で、換気扇だけが勝手について動き出している。
何が起きているのか確かめないと。でも、凍りついたように足が動かない。
ついに四つ総ての換気扇が回り始めた。その音が俺の耳と意識に響く。
ヴィィィィ。気に障るを通り越し、今は恐怖しか感じないあの低音を、俺は朝まで聞き続けることだろう。
換気扇の音…完
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