霧散した恋

34/38
前へ
/84ページ
次へ
映画館の劇場というのは人をてっとり早く神秘的な気持ちにさせてくれる。 黒く染まった視界、ぼんやりとした光、ビッグサイズのスクリーン。 未知の映画への高まる興奮と期待、ほかの客の小声の会話が映画館にやって来たという実感を沸かせてくれる。 俺はスマホの電源を切ったことを確認し、映画館の案内や会員になった場合の説明をしているスクリーンの中のお姉さんを見つめた。 「ねえねえ」 隣の席に座っている八神が肘で突いてきた。 「なんだ?」 「ポップコーン食べる?」 八神がポップコーンを差し出してきた。 「いや、いらない」 「塩嫌い?キャラメルのほうがよかった?」 「食べたら口の中渇くだろ?映画に集中出来ない」 「ジュース買えばよかったのに、俺のアップルジュース飲む?」 「いや、水分を摂るとトイレに行きたくなる」
/84ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加