霧散した恋

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「ふーん…行けばいいじゃん」 「行けばいいって…トイレにか?」 「うん」 「ダメに決まってるだろう、映画を見逃したくない」 「ちょっとくらいいいじゃん」 「何がいいのか分からんが、とにかくジュースは飲まない」 「ふーん…」 八神はチューチューとストローを吸いながら俺を横目で見た。 室内がさらに暗くなり、スクリーンが横に伸びた。 俺は真剣に前を見る、映画の予告が始まるのだ。 臨場感あふれるサウンドと迫力のある映像はいつだって心を揺さぶってくれる。 「へえ、あの映画面白そうだね、来年の三月か」 「…」 「ねえ桐島くん、あの映画今度一緒に観に行こうよ」 「映画館ではお静かにだ、映画好きにとっては予告も神聖な時間なんだぞ」 俺は小声で八神に教えてやった。
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