霧散した恋

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吹雪が轟々と地面を白く塗っている。 八神は俺の言葉を無視し、頭を乗せたまま美味しそうにジュースを飲んでいる。 俺は焦った。 映画は完璧完全に観るのが俺のポリシーだ、肩に重りが乗って痺れてくる中で観るなんてあってはならないことなのだ。 くそ、やはり映画は人と観るべきものではない、それも映画が好きではないものとはなおさらに観てはならないな。 スクリーンの中に外国のおじさんが登場した、吹き替えなので喋る言語は日本語だ。 「おい、マジでどけろ」 「えー」 からかうような口調な八神に苛立ちと焦りを覚える、腕を動かし八神の頭を払いのけようとする。 だが八神の抵抗は激しく、意地でも俺の肩から頭を離そうとしない。 「なんのつもりだ!」 「ふふーん、さっき意地悪なこと言ったからお返し」 意地悪なことなど言った覚えはない、お前が勝手に凹んだだけだ。 とは言えなかった、自分にも配慮が足りなかったのは事実だからだ。 そしてこうしている間にもどんどんと時が過ぎている、映画の中の登場人物が二人になった。 内容が全然入ってこない、俺は焦った。
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