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どれだけ悔やんでも自分の本音が只の言い訳にしか聞こえないとは分かっている。
自分があの二人の日常を守りたかったなど。
結局は足りなかった。
二人の日常を守るために自分がどんな苦しみでも背負う――その為の覚悟、チカラも何もかも。
一人は何も知らずに日常を送り続け、もう一人は事実を知ってそれを受け入れた。
あの子が仮面の下で何を思っているかそれを知るすべはありはしない。
『ッ……』
つんざくような甲高い音が耳を貫く、それはまるで悲痛な叫びのようで――
「う……」
眩しさを感じると甲高い音から悲痛さがなくなっていた。身体は反射的に起き上がっていた。音の正体はなんてことはないポットの中身が沸騰する音だ。そこに眼鏡をかけて白衣を身に纏った女性が話しかけてくる。
「やあ、お目覚めかい広海。丁度コーヒーを入れるところだったんだけど君も飲むかい?」
「うん……頼むよ……」
ボーっとしたままでいるとコーヒーの注がれた銀色のカップを手渡されて、口に運ぶ。
「熱ッ」
淹れたてであったことを思い出しながら息を吹きかける。そして、何気なく時計へ目をやる。
「僕はどのくらい寝ていた?」
「2,3時間かな……仕上げはやっておいたからチェックは頼んだよ」
「あぁ……ごめん」
「気にしないでいいよ。むしろ、寝るんならちゃんと休んでほしかったな……寝る時ぐらいは気を抜きなよ」
申し訳なさ半分に聞き流すつもりでいたが『酷い顔している』という言葉にカップを持つ手が止まる。
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