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大学の構内――授業の仕組みは中学と大きく異なっているが故に講義の時間であろうと学生は全員が教室にいるとは限らず構内を歩いていれば普通に見かける。本来なら人目を忍ぶ必要性などないのだが訳合ってここを訪れていた海翔は違った。
別に外部の人間の立ち入りが禁止されているわけでもないし不法侵入をしたわけでもない。更にはとある研究室に用がある事を事務に伝えてその研究室から了承の返事ももらっている。この大学のとある研究室には広海が研究員として在籍していて、そして海花が学生として籍を置いている。
そして、海翔は海花に内緒でここに来た。彼女の講義の時間も調べてあるが大学の講義は教諭によっては早く終わるらしく「先生の気まぐれも考慮に入れてね」と身も蓋もない忠告を受けている。
何度かここを訪れているので警戒をしながら研究室にまでゆくのは最早お約束ではある。人気を探りながら出来る限り最短最速で構内を駆けていく。
「――――着いた」
大きな研究室ではないが、研究内容はハッキリ言うとヤバいとでも言うべきか。怪物を倒すための物なのだからヤバ気がないわけではないのだが――海翔が持っているドライバーは試作品の設計図をコピーしたものを横流しして造られたものであるらしい。
そして、自分の仕事はその横流してきた先が戦力を固める為の時間稼ぎ――という事になっている。
海翔は手を握って研究室の扉を叩く。すると、ドアが開いて私服の上に白衣を着込んで眼鏡をかけた女性が顔を出した。
「やぁ、カイトくん。待ってたよ」
「どうも満浴沙さん」
彼女の名は晶浜満浴沙 《あきらはま まあさ》。公的にはこの研究室を預かる科学者で広海の上司であり、私的にも広海とは腐れ縁と呼べる付き合いの長さをもつ友人である。
そして、科学者というよりは個人として友人として広海、延いては海翔に手を貸してくれている。彼女の立場からすればわたる必要すらない危うい橋ではあるのにも関わらずだ。
「さぁ、中へどうぞ」
促されるままに海翔は部屋の中に入る――すると、ソファにアイマスクをして眠りについている広海の姿が目に入った。海翔はそこに歩み寄るとずり落ちている毛布を広海の身体に被せなおした。
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