その笑顔、たぶん、無敵

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A「ほら、あの林の向こう。もう、すぐそこに『冬』が見えていると思わないか?」 薄く雪が落ちてぬかるんだ山道を、スニーカーでザクザクと踏みしめながら、カメラを構えた彼女が歩いて行く。 『冬が産まれる瞬間を撮るんだ!』 そう言って、突然学校の裏山にダッシュした彼女を、僕はいつものように追いかけた。 足元に、じわりと染みる冷たい感触。薄いブルーのキャンバス地のスニーカーが、少しずつ泥水を含んで、下の方からグラデーションのように濃い色に変わっていく。 前を走る彼女にも同じ現象は起こっているだろうけど、目の前の事に夢中だから、きっと気がついていないだろう。 彼女の思い付きは、いつも突然だ。 先を急ぐ彼女と、それを追いかける僕。 その距離、約40センチ。
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