14人が本棚に入れています
本棚に追加
A「ほら、あの林の向こう。もう、すぐそこに『冬』が見えていると思わないか?」
薄く雪が落ちてぬかるんだ山道を、スニーカーでザクザクと踏みしめながら、カメラを構えた彼女が歩いて行く。
『冬が産まれる瞬間を撮るんだ!』
そう言って、突然学校の裏山にダッシュした彼女を、僕はいつものように追いかけた。
足元に、じわりと染みる冷たい感触。薄いブルーのキャンバス地のスニーカーが、少しずつ泥水を含んで、下の方からグラデーションのように濃い色に変わっていく。
前を走る彼女にも同じ現象は起こっているだろうけど、目の前の事に夢中だから、きっと気がついていないだろう。
彼女の思い付きは、いつも突然だ。
先を急ぐ彼女と、それを追いかける僕。
その距離、約40センチ。
最初のコメントを投稿しよう!