その笑顔、たぶん、無敵

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手を伸ばせば届きそうで、届かない微妙な距離。 この距離は、半年経っても一年経っても、一ミリも縮まらない。 彼女は、根っからの芸術家だ。 ……その行動も思考も、とても常人には理解できない人、という意味だけど。 今だって、彼女は林の中から、ひらひらと舞う雪に向けてひたすらカメラを構えてシャッターを切っては、『よしっ!』とでも言いたげな表情をしている。 何がそんなに『よし』なのか、僕には全く解らない。 だけど……一つだけ分かっている事がある。 B「キミの手の中から、今、まさに『冬』が生まれているんだね」 僕の言葉に、一瞬だけきょとんとした表情になった彼女は、 A「キミは、小説家になれそうだな」 と言った。 B「それは、『キミの感性が理解できない』っていう意味だよね」 そう答えると、彼女は弾けるように笑った。 まるで『よく分かってるじゃないか』とでも言うように。 僕たちは、お互いの感性が理解出来ない。 だから距離は、なかなか縮まらない。 だけど、こうして感情は解り合える瞬間があるのだから…… この距離だって、いつかはゼロになるのかもしれない。
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