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▽
街で唯一原型を残した建物の陰に、並べられた怪我人達。
寝ている人と、慌ただしく動き回る人。全てを足しても、街人の数には遠く及ばない。
無差別爆撃。
政府に中指を立てるためだけの大量虐殺は、無慈悲に人を粉々に消しとばした。
既に爆撃から二時間は経過していた。
だというのに一向に来る気配のない救援。この国の荒みが、一人また一人と死んでいく此処では嫌という程感じられた。
『あんたらも手伝ってくれ』と、皆を指揮している男が叫ぶ。
──こういうことは、アイツが率先してると思ったのに。
レイアは奥の方にいた。
薄い、麻の布を胸まで掛けて寝ていた。
『レイア......!』
走って駆け寄る伊吹。
しかし真一は、この周辺には人が来ないことに気づく。
重い怪我をしている人も多いのに、誰もやってこない。
そして同時に、この周辺は静かなことに彼は気づいた。
だって、隣で寝ている女性に縋り付く子供の嗚咽が、こんなによく聞こえる。
『レイア!レイア起きてくれ!俺だ、信だよ!大丈夫か?どこを怪我してる?』
レイアの横に座り、怪我の様子を確認しようとした伊吹に、共に夜飯を食べる仲間だった少年が、死んだ表情で言う。
『腰より下は見ない方がいいよ』
『何を言って......』
忠告を聞かずに布を捲った伊吹は、固まり、
『うっ、おぇぇ』
思わず脇に吐いた。
『ほら、言った』
死んだ目の少年が、痩せた膝を抱えて言う。
『お姉ちゃんの顔があんまり傷つかなくてよかった。好きな人には綺麗な顔で会いたいもんね』
死んだ感情でそう笑った彼。
『知ってる?お姉ちゃん信君のことが──』
彼の言葉は伊吹には届いていなかった。
なぜ気がつかなかったのだろう。
レイアの隣に寝ている『誰か』は、頭から布をかぶっているというのに。
こんな怪我人が多いのに、この一角は呻き声のない事に。
「死体置き場......」
▽
石板の発見は、世界中で大きなニュースとなり、その発見者である二人は、大きな拍手に迎えられ、空港に降り立った。
空港から直で会見会場へ行くために、報道陣の列を抜けてロータリーへと歩く。
「お帰りなさい。二人とも」
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