0人が本棚に入れています
本棚に追加
車の前で待っていたのは、優しく微笑んだ桜と、彼女のズボンの裾を掴み、指を咥えたユウキ。
「ああ、ただいま」
ユウキを抱き上げた真一。その上から二人を抱きしめた桜。
どこからか集まったカメラマン達が一斉にシャッターを押す。
親子三人の微笑ましい光景の中、嗚呼。どこかで見た死んだ目をした男は思う。
──平和だな。
憂鬱になるほどの晴天だった。
▽
石板のレプリカを作り、大学で、伊吹の『mark.27』と真一の同時解読が始まった。
彫ってある深さまで解読に関係するという恐ろしい言語だったが、それでも二人はゆっくりと、しかし着実に解読を進めていった。
解読開始から四年ほど経ち、
「どうやらこれは、予言のようだ」
との結論に至る。
「此処から下は全て、西暦に直すと1900年からの記述だと思う」
「ああ、そうだな」
「一番下は、二千......その先はまだ読めないか。だが記述がここで終わっている」
「人間滅亡でも予言したか?」
「わからない。だが、十分にあり得るぞ......!」
ノストラダムス、マヤに次ぐ大予言が、此処にあるかもしれなかった。
▽
「なぁ真」
ある日、帰宅しようとした真一を呼び止めて伊吹は言う。
「一つ、提案があるんだ」
「......どうした?」
鞄を机の上におろし、問い返す。
「もしコイツが、本当に予言だったら、世間に発表せずにいないか?」
低い夕日が研究室に差し、影となった伊吹の顔は見えなかった。
だがその一言だけで真一は察する。
「〈爆弾〉に変えようということか」
日本に帰ってきてからも、二人のキャンサーとの戦いは続いていた。
実際、上位レベルなどと戦うことも多くなり、苦戦を強いられることが多いのは確かだった。
〈世間に与える衝撃〉に比例する伊吹の爆弾の爆薬を、〈予言〉にすれば恐ろしい威力を出せる。
「難しいところだ。まずどうやって騙す?法則性を聞かれて、適当を言っても直ぐにバレる」
「『まだ解読中です』を永遠に続ければいい。どうせもう、殆どの人がこの石板のことを忘れてるよ」
そう言った伊吹は、小さく続けた。
「......あの内戦のこともな」
最初のコメントを投稿しよう!