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あの国の内戦は、伊吹たちの帰国後半年で終わりを迎えた。
何が解決したというわけでもない。片方の戦う力が無くなった。ただそれだけだった。
「真。俺が提案したいのは、キャンサーを倒すための爆弾じゃない。戦争を止める。戦争の〈抑止力〉となる爆弾だ」
「なっ......!?」
真一は驚愕に目を見開く。
「信、お前何言って──」
「今の世界、いつ世界的な戦争が起こってもおかしくない。その戦争に、日本が巻き込まれても」
悲痛な、低く唸るような声だった。
「俺はこの四年、ずっと考えてきた。俺たちが住むこの街が、焼け野原になったら。空爆でビルが倒壊したら」
「桜さんが、上半身しか残らなかったらどうする......?」という伊吹の言葉に、
「......やめてくれ」
ただ真一はそう返した。
「戦争行為をした国に、罰のように落ちる爆弾を作れば。戦争により益を得ようとする者と、その益を吹き飛ばす爆弾があれば、戦争は起きない」
伊吹は早口に。しかしどこまでも冷たい言葉で続けていく。
「一般市民に被害は出さない。言語世界を通り、虚構世界を潜らせ、その爆弾は、戦争を楽しむ者の頭上にのみ落ちる」
伊吹は一歩、真一に近づいた。
赤い日に照らされた彼の顔は、
──君はそんな顔をする男だったか?
同意を求めるような薄い笑みは、顔の歪みにしか見えず、目は笑っていない。ただ細かに揺れる眼球がに赤く走る血管。
「〈言語世界〉、〈虚構世界〉、〈ベツレヘムの石板〉、そして〈爆弾発言〉。コイツらを使えば、防御不可能の最強の兵器が作れる!」
興奮した口調で捲したてる伊吹。
「今度大臣たちに会いにいく時に進言するんだ。この石板の、〈戦争抑止力〉としての存在価値!」
そこまで言った伊吹はしかし、我に返ったように顔を平常に戻すと、静かな声で言った。
「俺はもう、レイアのような人を見たくないだけだ......」
ギュッと握った拳が、彼の苦悩を表していた。
彼女を失った伊吹の悲しみを、真一はよく理解しているつもりだった。
だが、此処まで追い込まれていたとは。
「信、だめだ。だめだよ。言葉を戦争の道具にするな。形は違えど、やろうとしている事はあの国と一緒だぞ」
言葉を守るか、言葉で守るか。
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