0人が本棚に入れています
本棚に追加
どっちにしろ、人を殺す機械を作る事に変わりはなく。
「関係ない。ここが、あの街にみたいになっていいのか!?」
吠える伊吹。
「良いわけないだろ!......でも、でもそれじゃだめなんだ。その思考に至った時点で、もう何かが、だめな気がする......」
叫び返した真一だが、最後は消え入りそうな声だった。
「......お前にしては、抽象的な反論だな」
諦めたように、伊吹は研究室を出て行った。
一人夕日だけが照らす部屋の中、残された真一。
〈どっちの考えが正しいでしょう大会〉は、開かれそうになかった。
▽
二週間後。真一の携帯に伊吹からの簡素なメール。
『コンピュータ室に来てくれ』
今日はもう遅い。時計の針は九時を指し、気味の悪いほど丸い満月の灯りが、コンピュータ室に射す。
ディスプレイに映る鏡月。ずらりと並んだデスクトップ。それぞれに空を造る。
静まり返った部屋の中央。伊吹を待つ真一。
嗚呼。今一斉に、夜空を映していたディスプレイ達は『爆弾発言』を提示した。
▽
回想終了。伊吹の意識は現在へと戻る。
「呆気ないものだな。好いた人も、親友も、ボタン一つで死ぬもんだ」
ユウキが、ギュッと白衣の裾を握った。
「伊吹さん、辛そうな顔」
「ああ、辛いよ。どれだけ悩んだか。その先に、出した答えにどれだけ後悔したか」
ドームを見上げて、伊吹は呟く。
「ユウキ。俺はこれを作るのに、そして、『もう誰も戦争の犠牲にしない為』、沢山のものを犠牲にしてきた。変えようのないもの。関係のない子供」
ドームは、あの日見つけた祭殿に似ている。
「俺がした事は、決して許されることではないだろう。......それでも、今の小さな犠牲が、後の大きな平和になるならば。俺はどんなことだってしよう」
あの日とは違い、照らす太陽のない空。
「ユウキ、こんな言葉を知ってるか?」
おもむろに問いかけた。
「俺と、俺の親友の合言葉だったんだ。どんな辛い時でも、勇気をくれる言葉だ」
「守るべきものがある限り、心は決して折れはしない。心が折れない限り、人は何度でも立ち上がれる」
ユウキは濁った瞳で、失った記憶で優しく笑う。「いい言葉だね」と。
「そうだろ?」
彼は満足げに笑った。
「でも、『誰かを守って戦う人』は、俺が最後でいい」
最初のコメントを投稿しよう!