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「〈デーモンコア〉。天に昇る、世界最強の爆弾だよ」
「爆弾......?伊吹さん。どうしてそんなものを作るの?」
「平和のためだよ。ユウキ」
「平和?」
「ああ、そうだ」
「爆弾は平和を壊さないの?」
「壊すさ。今まで何万人という人が爆弾で死んでる」
「だったら......」
「でもな、この爆弾は違う。この爆弾は、そんな平和を脅かす『戦争』や『爆弾』といったものを爆破する爆弾だよ」
▽
十年前。空港。
「それじゃあ行ってくるよ、桜さん」
手を振ったのは、巨大なトランクケースを引いた焔音真一。
医者や科学者ではないにもかかわらず、白衣を着ていた。
「ええ、行ってらっしゃい。できるだけ早く帰って来てね?」
手を振った桜の腕の中で、すやすやと眠る赤ん坊。
「ユウキはどっちでもいいってさ」
そう肘を突くのは、同じく白衣に身を包んだ伊吹信元。
三人は笑い合う。暖かい光景。
「おっと。時間やばいんだった。じゃあ、行ってきます」
「行って来まーす」
走り去る二人を、少し寂しそうな顔で眺める桜。
「お仕事だから、仕方ないのよね」
そう呟くと、腕の中のユウキに笑いかけた。
「あの二人、ほんと変よね?『俺たちは言葉の医者なんだ』なーんて言って」
呆れたように、しかしどこか微笑ましそうに言った。
腕の中の寝顔が、少し笑ったように見えた。
▽
飛行機の中。窓際の真一へ伊吹は尋ねる。
「本当に良かったのか?桜さんとユウキと離れて」
雲の上の景色を眺めていた真一は答えた。
「仕方がない。ゲートの自然収縮が全ゲートで同時に起こるなんて奇跡、次を待ってたら何十年先かわからない」
「あーあ。世界を守るヒーローってのも、辛いなぁ。自由がないし、何より給料が発生しない」
「......できるだけ早く帰ろう。長く会えないのは堪える」
「ははっ!そうだな」
▽
「おいおい。マジかよ」
〈ベツレヘムの石板〉があるという情報を得た国。
飛行機を乗り換え、降り立った首都空港からタクシーで走る。
石板が置かれている洞窟があるであろう森──日本の森とは規模が違う──の近くの町に泊まろうと思っていたのだが。
「街がねぇ......」
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