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崩れたレンガ壁。銃弾によって穴だらけのコンクリ壁。
全ての建造物が原型をとどめておらず、目線より高いものはことごとく砕かれて地に散らばっていた。
大量の空薬莢が、歩くたびカランと軽い音を立てる。
人の姿は、一つもなかった。
「内戦の悪化は知っていたが、ここまでとはな」
「こっちの地域は大丈夫だったはずなのに。戦域が拡大してるのか」
塵の積もった露店街を抜けても、誰にも遭遇せず。
「この街は、死んでる」
「ああ。近くの街を探そう」
タクシーの運転手が怪訝な、嫌そうな顔をした理由がわかった。
「さて、この近くに街は──」
『──あるわよ。私が住んでる街』
二人の背後から聞こえた日本語ではない女性の声。
立っていたのは、編み籠を背負った現地女性だった。
褐色の肌に、薄いクリーム色の髪。汚れた白い布の服に、裸足。
小動物のように丸く、愛嬌のある笑顔が好印象な、二人より数歳年下であろう彼女は問う。
『貴方達、旅人さん?こんな危ないところによく来るわね』
『俺たちは言語学者だ。とある古代遺跡にある石板を見つけに、そしてそれを解読するために来た』
現地語でスラスラと話した伊吹に少し驚いた顔をした彼女。
『へぇ。言語学者。なんだか崇高な職業っぽいわね。そう、私は近くの村で小さな宿をやっているんだけど、どう?安くするわよ?』
『おっ。それはありがたいな』
「どうする真一」と聞いた伊吹に、真一は頷いた。
『しばらくの間お世話になる。焔音真一だ』
『伊吹信元だ。よろしく』
『真一に信元ね。私の名前はレイラよ。よろしくね』
腰を折って、上目遣いでそう言った彼女の笑顔が、綺麗だと伊吹は思った。
▽
『ところで、君はあんなところで何をしていたんだ?』
歩きながら、伊吹は問う。
『薬莢とかを拾ってたのよ。売ればそこそこのお金になるしね』
『へぇ......』
『宿屋をやってるって言ったけど、今じゃこんな所に来る物好きはいないから、実質こっちが本業なのよ』
彼女が背負った籠の中には、確かに大量の薬莢や金属片が入っていた。
『貴方達は久しぶりのお客さんだわ』
彼女は嬉しそうに笑うのだった。
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