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二人が来て、もうすぐ5ヶ月になりそうなある日。
いつもの如くどんちゃん騒ぎする宿裏の空き地。
スープを傾け、伊吹はふとレイアの姿がないことに気づく。
彼女は皆より少し離れた場所で、一人倒木に背を預けて座っていた。
『どうした?一人でこんな所に』
隣に座りながら、伊吹はそう問う。
彼女は、空を見上げたまま言う。
『私ね、貴方達が来るまではずっと、夜ご飯を食べた後星を見上げていたの』
『へぇ。案外ロマンチストなんだな』
『どうかしらね。でも、今は見れないわ』
彼女につられて天を見上げると、しかし空き地の焚き火が明るすぎて星が見ずらかった。
『前はあんなに暗かったのに』
『悪いな。もっと見えやすい所に行くか?』
『いいえ、私はここの方が好きよ。私が星を見上げていたのは、暗く寂しいのが怖かったからなの』
ふと彼女が伊吹の方を向く。
焚き火に照らされる彼女の顔は、いつもより可憐に見えた。
僅かに濡れた瞳を閉じて、またゆっくりと開く。
瞳に映る炎の揺らめき。
『それにね、明るくなったのはこの場所だけじゃないわ』
『と、いうと?』
『街のみんなよ。ずっと内戦の被害に怯えて、街がずっとお葬式みたいだったんだから』
この国で起こっている内戦。
この5ヶ月の間にも、その規模、被害は増え続けていた。
『違う言葉を喋る東の方の人達は、今のこの国に不満らしいわ』
『......そうみたいだな』
『ねぇ、言葉が違うだけでどうして人を殺すの?』
空き地の方から大きな笑い声が響く。
『自分たちの言葉を愛していて、それを守りたいからだよ。この国は、確か一つの言語に統一しようとしてたはずだ』
『言葉を、愛しているのね』
少し驚いた顔で彼女は言った。
『「守るべきものがある限り、心は決して折れはしない。心が折れない限り、人は何度でも立ち上がれる」っていう言葉があってな。俺と真の合言葉なんだ』
『へぇ、とてもいい言葉ね』
そう笑ったレイアは、ふと思いついたように言った。
『そうだ!貴方と彼の話をしてよ!どうやって知り合ったの?』
身を乗り出して聞いてくる彼女に、伊吹は少し困った顔をしながら、
『......まぁ、 絵本でも読む感覚で聞いてくれ』
明るい夜。伊吹は語る。
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