回想回

5/15
前へ
/15ページ
次へ
▽ 二人が来て、もうすぐ5ヶ月になりそうなある日。 いつもの如くどんちゃん騒ぎする宿裏の空き地。 スープを傾け、伊吹はふとレイアの姿がないことに気づく。 彼女は皆より少し離れた場所で、一人倒木に背を預けて座っていた。 『どうした?一人でこんな所に』 隣に座りながら、伊吹はそう問う。 彼女は、空を見上げたまま言う。 『私ね、貴方達が来るまではずっと、夜ご飯を食べた後星を見上げていたの』 『へぇ。案外ロマンチストなんだな』 『どうかしらね。でも、今は見れないわ』 彼女につられて天を見上げると、しかし空き地の焚き火が明るすぎて星が見ずらかった。 『前はあんなに暗かったのに』 『悪いな。もっと見えやすい所に行くか?』 『いいえ、私はここの方が好きよ。私が星を見上げていたのは、暗く寂しいのが怖かったからなの』 ふと彼女が伊吹の方を向く。 焚き火に照らされる彼女の顔は、いつもより可憐に見えた。 僅かに濡れた瞳を閉じて、またゆっくりと開く。 瞳に映る炎の揺らめき。 『それにね、明るくなったのはこの場所だけじゃないわ』 『と、いうと?』 『街のみんなよ。ずっと内戦の被害に怯えて、街がずっとお葬式みたいだったんだから』 この国で起こっている内戦。 この5ヶ月の間にも、その規模、被害は増え続けていた。 『違う言葉を喋る東の方の人達は、今のこの国に不満らしいわ』 『......そうみたいだな』 『ねぇ、言葉が違うだけでどうして人を殺すの?』 空き地の方から大きな笑い声が響く。 『自分たちの言葉を愛していて、それを守りたいからだよ。この国は、確か一つの言語に統一しようとしてたはずだ』 『言葉を、愛しているのね』 少し驚いた顔で彼女は言った。 『「守るべきものがある限り、心は決して折れはしない。心が折れない限り、人は何度でも立ち上がれる」っていう言葉があってな。俺と真の合言葉なんだ』 『へぇ、とてもいい言葉ね』 そう笑ったレイアは、ふと思いついたように言った。 『そうだ!貴方と彼の話をしてよ!どうやって知り合ったの?』 身を乗り出して聞いてくる彼女に、伊吹は少し困った顔をしながら、 『......まぁ、 絵本でも読む感覚で聞いてくれ』 明るい夜。伊吹は語る。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加