序章 悪夢

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 ……いや、わかっているとも。私は記憶を封じている、他ならない、私自身が、 私の意志の元、記憶を封じ込めている。 過去は今の私を傷付けるものだから、痛みからは離れたい、傷付きたくない。繊細な私を、痛みから守ろうとしているのだ。  ただ、今日は『魔が差してしまった』。 夢を見た、捏造された夢を見た、私には無かった栄光を見た、私の悲しい妄想の世界を見た、周囲から賛美を受ける自分自身を見た。 現代社会は、そのような者に、容赦が無い……いや、それは言い訳だ。私は自分から痛みに近付いて、痛みを受けた。智恵の実を、蛇に騙されて食したアダムとイブのようにでは無い、私は痛みを受けることを知りながらも、その痛みに、自ら進んで行った。  全く以って、救いようの無い人間だ。 その上、痛みを受けて痛がっている。現代社会のせいにしようとしている。分かっていたはずなのに、こうなることは予想出来たはずなのに、まるで背後から急に刺されたかのように、私は傷を痛がっている。誰か助けてくれと叫んでいる。
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