宙の記憶

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 それは、亜梨紗がかつて宇宙研究所の職員として働いていた時の権威ある教授の退官パーティーだと言う。亜梨紗は四年前までそこで地質学の研究をしていた。隕石やロケットが採取してきた衛星の一部、そして地球の土壌を解析するのが亜梨紗の学生時代からの研究テーマで、卒業後にそのまま大学の一部である研究所に就職して、四年間研究を続けていた。 パーティーの開催予定は半年以上前から具体的に決まっていたらしいのだが、亜梨紗は何度かそれを断ったのだと聞いている。その理由はテクタイトにはわからない。ただ、そのパーティーの話をすると亜梨紗の心の中にほんの少し影が落ちることは、把握していた。深い悲しみや怒りではない。これは、おそらく、緊張と呼ばれる状態に近い。それが湧き起こる度に、テクタイトもまた、妙に落ち着かない、胸騒ぎがした。だからてっきり、そのパーティーには亜梨紗は参加しないのだと思っていたのだが。 「マスターは出席されるのですか」 「そういう返事をもらったけど。念の為に確認をしに電話したの。てかあの子、いつになったら携帯持つのよ。不便ったらありゃしないわ」  軽く悪態をつくアーシャの表情は、明らかに曇っていた。いつも静かに微笑んでいる亜梨紗と違い、表情の変化がはっきりとしている。亜梨紗とは感情を共有しているから相手の気持ちがわかるのだが、アーシャとはそうはいかないため、テクタイトは時折その発言や表情の真意を測りかね戸惑うことがある。 「――申し訳ありません」 「え? 何を謝るの」 「ああ――いえ」 不思議そうに返されて、謝るべきことはなかったのだと気付き、テクタイトは慌てて続けた。 「では、マスターにはそようお伝えします」
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