罪と罰

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 思えば生きる理由も義務もない。物心ついた頃にはこの惑星に居て、神からの使命でもなくなんとなく生きてきた。  それが命を絶つだけで、煩わしい仕事や意義のない生命活動の一切を辞められる。  本当に、何故僕は生きているのか。  そう考えると止まらなくなり、衝動的にホームセンターでロープを買った。  心残りはないかな、と思い当たったのは大好きだったコメディ色の強いドラマ。  なんてくだらない心残りだ。僕は本当に生きる理由を持っていないんだな。  自分でも悲しくなりながらドラマをぶっ通しで見て爆笑し、いよいよ首を括る意外にやる事がなくなった時。いつもの癖でつい、リモコンの真ん中辺りのボタンを押した。5か8か、そんなところだ。  そこに映し出されたのは、咽び泣く家族。  写真を抱え、カメラの前でも隠しきれない怒りに震える父親。下を向いて表情を全く伺わせない母親。体内の水分を全て出し切ってしまいそうな勢いで号泣する少女。  フラッシュライトに照らされた悲哀、絶望、憤怒。 「死ぬ前に見る最後の映像がこれかよ」  不謹慎な台詞が思わず飛び出た。  しかし、もう一度ドラマを見直そうかとリモコンを取った手が、止まった。 『○○県 小五女児誘拐惨殺事件』  文字列だけでも目を覆いたくなる。ニュースでは若干濁してある部分もあるが、性的暴行もあったようだ。同じ県ですらない、全く知らない子だが、腹立たしいし胸糞悪い。  そういえば、いざ死ぬ気になっても他の誰かを道連れにしようとは思わなかったなぁ。  暢気な航大とは裏腹に、遺族の父親のコメントが流れる。 「許せません。絶対に許せません。何としても犯人を捕まえて、法の裁きを──」  テレビに流れる映像だ。取り繕っているものの、その目の奥には全く違う意思を感じた。  そこで、彼は思った。  どうせ死ぬのなら、仕事をやめて貯金使って、この胸糞悪い事件の犯人を同じ目に合わせてやろう。
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