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1 カモミールティー
喫茶・ラプランシュにはカモミールティーがある。
これは、この店によく来るアリエルの好きなお茶なのだ。
カモミールには鎮静作用があり、神経質なアリエルにはありがたいお茶だった。
他にもローズヒップ、レモングラス、ペパーミントなどがあったが、アリエルはペパーミントは嫌いだった。
長い長い不眠の時期を経て、ようやくペースを取り戻しつつあるアリエルだが、ここに来る男、レーゼのことが気になって、神経が休まらなかった。
アリエルが、窓の外から差し込む秋の日差しを受けながら、紅茶クリームも入った紅茶ケーキを食べていると、店員のマナが来て、水のグラスを取りのけた。
「ヤーボン風きのこ入りスープスパゲティ、ひとつ」
アリエルは言った。
その整った顔は、女優ほどではないが、まあいい方で、彼女の自尊心を肥大させるに十分だった。髪は金髪。しかし彼女に触れた男はなく、アリエルは自分が古びていくことを徒らに恐れた。そんな彼女を救ってくれるのがレーゼのように思われて、ただ「女になるために」レーゼのものになろうという軽薄な考え、そして行動に流れていきそうなのだが、周囲はそんなアリエルを少し心配だと言うのである。 情欲 怠惰、富、大酒、大食。神の教える「愛」というものが信じられないなら、聖霊を退けてサタンにつくしかない。ボードレールも悪魔主義だった。
勤勉に働いてもいけないのだろう。
聖霊を退ければ、幸せになれるはず。アリエルは道徳からの解放を願った。
身体的快楽が何より大事だというのなら、泥のように眠ることもやはり大事である。
アリエルは肉が食べたかった。
「鴨のロースト、ひと皿」
アリエルは言った。そうして、心の中で、いつか教会で神と交わした契約を取り消した。アリエルはただ苦しみから自由になりたかったし、幸せになりたかっただけである。だから神に頼ったのに、神が与えたものは虐待だった。アリエルは心からサタン主義者になった。
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