澄とチョウの七日間

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「どうしたんだ?」  風呂に入っていた父さんが、バスタオルで頭を拭きながら慌ただしく玄関にやってきた。玄関マットの上に立ち尽くす僕と、そんな僕を座り込んで見上げたままの長太郎の顔を交互に見る。 「……何でも」  僕はゴクンと唾を飲み込むと、ポツリとつぶやいた。  それから、素足をサンダルに突っ込み、長太郎の隣に腰を下ろした。袋に残っていたキュウリを取り出し、そのままボリボリかじる。  ヤケクソな気分だった。  すると、思いがけないことが起こった。  長太郎は僕の腰に横っ腹をこすりつけるようにして座り直し、そして、器の中のドッグフードを食べはじめた。さすがに腹が減っていたんだろう、むさぼり食うように。  パジャマ代わりのTシャツ越しに、長太郎の温もりが伝わってきた。硬いゴワゴワした毛のくせして、その温度はやたらとやわらかい。  僕がポカンと口を開けていると、長太郎は器から顔を上げた。鼻先でスンスン鳴いた。促されているように感じて、またキュウリを一口かじる。  それを見て安心したように、長太郎もまた器に顔をうずめた。  父さんは息を漏らすようにして、おかしそうに笑った。 「……そうか。いつもじいさんとそうやって食べていたのか。腹が減ってるんじゃないかって、逆に心配してくれていたんだな」
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