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「マジかよ……」
犬がそんなことを考えるなんて、信じられなかった。
「親戚から聞いた話は、もうひとつあってな」
父さんはそう切り出しながら、玄関マットの上に腰を下ろした。足は裸足のまま玄関の床につける。
「澄は勘違いしているみたいだが、実は、チョウタロウの『チョウ』は『長』じゃないんだ」
「え?」
そう種明かしをされても、とっさに思いつく字がなかった。
「『澄』って珍しい名前だろう? 名付け親は、じいさんだ。機会がなかったから、今まで話したことがなかったけどな」
「そうだったんだ」
「うん。『澄清』という言葉から取ったそうだよ。澄んだ空を意味している。世の中が清らかで穏やかになる、という意味もある。かわいい孫には、青く澄んだ空のように清らかで、また、周りをいつでも穏やかにするような人間になって欲しいと願ったんだ」
「まさか……」
僕は長太郎を見た。いや、もう僕の中で『長太郎』ではなかった。
「チョウタロウの本当の名前、って言うのも変だな。この子の名前は『澄太郎』だ。澄と会わなくなったちょうどその頃に、じいさんがどこからか貰ってきたんだと」
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