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じいさんが死んだ。
母方のじいさんだ。早いうちから肝臓をやられていたらしいから、七十九まで生きられたのは、もはや大往生を遂げたと言ってもいい。
とはいえ、じいさんが身体をむしばむ病魔に手こずっていたことなど、亡くなって葬式に出て、そこで母の親戚から聞くまで僕は知らなかった。
じいさんと僕は、ずっと会っていなかった。
もう十年以上になる。
僕は当時ランドセルを夢見るようなガキンチョで、たびたび母の運転する車で連れて行かれる母の実家で、大工の棟梁だった筋骨隆々の男臭いじいさんに会うと、最初の十分くらいはひどく緊張したものだった。
じいさんは酒が大好きだった。しかし、どれだけ呑んでも悪酔いしたり、人が変わってしまったりすることはなく、いつもほがらかだった。
そんなじいさんの家には、いつも誰かしらの客人がいて、ばあさんがそれを手料理でもてなし、夜通し宴が続くこともザラだった。
初めて泊まりがけで遊びに行ったときには、僕が布団に入ってからもにぎやかな酒を呑み続けていたじいさんが、朝は誰より早く起きて元気に現場に出かけていったことに、しこたま驚かされた。
そんな酒豪でパワフルなじいさんだったが、あっけなくばあさんに先に逝かれてからは、さすがに酒の量が減った。少し、痩せた。
それから間もなく、母までもが交通事故でこの世から去ってしまうと、それ以降、母に関係する人間との関わりは、もちろんじいさんとも、プッツリと途絶えてしまった。
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