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じいさんの葬式が終わった夕方、父さんが犬を連れてきた。
母の親戚だらけの精進落としに出席する気になれなかった僕と父さんは、火葬が済んだらさっさと斎場を離れ、家に戻ってきていた。
着慣れない喪服を汗と格闘しながらさっさと脱いで、清めの塩の代わりにザッとシャワーを浴びた。ほぼ裸同然の格好でくつろいでいると、いつのまにか出かけていた父さんが、車で庭に入ってきたのがわかった。
「なんだよ、この犬」
僕がいぶかしむ口調になってしまうのも無理はないと思う。
玄関に座り込んだ犬は、見たところ、雑種だ。鼻も耳もツンととがってシェパードっぽいが、毛は全体的に赤毛。身体もそこまで大きくない。短い尻尾が、柴犬みたいにくるんと上を向いてまるまっている。
暑いのか小刻みに呼吸を繰り返して、プラム色の舌がだらんと垂れている。その先からしたたる粘りけのある雫に、僕は顔をしかめた。
僕のことはもちろん、リードで繋がっている父さんのことも初めて見るはずだが、ボンヤリと見比べるだけで敵意はまるで感じられない。
僕は犬を飼ったことがないのでよくわからないが、そこそこな年齢なのかもしれない。
「じいさんの犬だ」
簡潔に父さんは答えた。
「じいさんの?」
「貰い手がいないそうなんだ。家で引き取ろうかと思って」
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