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父さんがじいさんのはとこだという男性に聞いた話では、長太郎が特別変わったものを食べていた記憶はないという。
ときどき、じいさんが自宅の裏の畑で作っていたキュウリやら、庭になった柿の実やらを、面白半分にあげていたこともあったそうだが、基本的にはドライのドッグフードを食べていたらしい。
その話にならって、仕事上がりに職場で袋に三本入ったキュウリを買って、そのうちの一本を試しに器に添えてみた。だめだった。長太郎は見向きもせず、僕に向かって親の仇と言わんばかりに吠えるだけだ。
「なんだよ、ちくしょう! うるせぇな!」
人の気も知らずに。僕たちはお前のためを想ってやっているのに。
僕は猛烈に腹が立って、キュウリを長太郎の頭に向かって投げつけた。
まぁまぁ大振りなキュウリは長太郎の鼻先で跳ね返り、長太郎は痛みと驚きで、ギャウン! と鳴いた。
「――――じいさんはもういねーんだぞ! お前のことがわかるやつは、この世にもういねーんだよ!」
長太郎に向かって言ったつもりだった。だけども、その言葉はそっくりそのまま自分の胸に突き刺さって、驚いた。
もうずいぶん会っていなかった、じいさん。その面影は、もうおぼろげにしか思い出せない。死んだって聞いたって、とくに悲しくもなかった。
長太郎はつぶらな瞳でじっと僕を見上げていた。やっとすべてに気づいて、ショックを受けて茫然としているように見えた。なぜだか、泣きたくなった。喉の奥がひくついた。
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