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 きっと、朔弥が気に入った女子学生に声をかければ何も問題なく交際がスタートしていただろう。  だが、万が一にも自分の築いてきたキャリアや立場がそういうもので壊されることを朔弥は恐れていたし、一時の浮ついた感情で間違いを犯すような人物ではなかった。  朔弥が女子学生たちのアプローチをさらりとかわす度、凪彦の中の彼の好感度は上がっていった。 「今度、知り合いの先生のワークショップがあるんです。良かったら一緒に行きましょう」  色気づいた女子学生たちを避ける一方、朔弥はよくそう言って真面目な凪彦や真面目なゼミ生を誘って講義外のいろいろな体験をさせてくれた。  大学のある都内のワークショップや講演会が中心だが、時には半日程度の遠出になることもあった。  凪彦は休日もそうして朔弥と一緒にいられることが嬉しかったが、反面、「彼にプライベートはないのか?」と心配になることもあった。 「大丈夫ですよ。普通の社会人よりはきっと遊んでます」  朔弥はそう言って、凪彦の杞憂を笑った。  だが、プライベートもないくらい仕事や、学生のための活動に入れ込んでいるように見られるのは嫌ではないと彼は言った。 「この仕事がきっと、私には向いてるんだな、って思えますから。社会学者のメインの仕事は研究ですが……私は君達のような若い人といるのが好きです」  そう話す朔弥の顔はやはり、自分たちと同年代と言っても違和感のないくらいに若い。  彼に対し、自分が「先生」に対する想い以上のものを抱いているのではないか――その頃の凪彦はそんな思いを浮かび上がらせては消していた。  だが夏が終わり、ゼミ仲間や朔弥と過ごす日々に充実感を覚えていた頃、思わぬ事が起こった。
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