1/3
前へ
/16ページ
次へ

「何で……あんな奴に優しくするんですか、先生」  部屋から出た朔弥は、廊下の奥から聞こえた凪彦の声にビクリと立ち止まった。  深夜1時。  睨むようにこちらを見る凪彦の様子に、すべてを見られていたのだと悟ったようだった。 「……仕事柄、不安定になっている学生の対応には慣れていますから」  どう返事を返していいか分からない様子で、朔弥はそう答えた。  まるで言い訳しているように見えて、凪彦はカチンときた。  中で何をしていたのか。  そう聞くと、話を聞いて寝かしつけただけだと朔弥は言った。 「思春期が終わる学生時代は……思いもよらぬ行動をしてしまうものです。同性であっても、自分を受け止めてくれる存在には依存心や、恋心に似たものを抱くこともある。そのうちきっと、青木くんもその事に気づくでしょう」  彼を責めないであげてください。  そう言う朔弥の態度が、凪彦をさらに苛つかせた。 「あいつの想いが、本物でないとでもいうのですか?」  朔弥の言葉に、凪彦は到底納得していなかった。  あなたは、冷たい。  一言そう言ってしまうと、もう言葉が止まらなかった。
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!

15人が本棚に入れています
本棚に追加