思いの錯誤

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 携帯を手に取ったあと、そのままベッドに倒れ込んで、それから今までこの部屋を出ていない。  なのに、聖司の額には熱冷まし用の冷却シートが貼られていた。  自分ではしていない。  第一、そんな気の利いたもの、この家にはない。  聖司の心臓は、ドクンと脈を打った。 (誰かが……)  誰かがここに居たのだ。  聖司ははっとして、重いはずの身体を軋ませながら起こす。 (……ま、さか……) ――――『……聖司くん……』  耳鳴りのように、脳の奥であの子の声が鳴り響いた。  ありえないと思っているのに、心はすでに、大いなる期待を抱いていた。  ありえない……  ありえない……  頭の中では、現実を見据えようとする言葉が巡る。  だけど、心は期待に急いていた。  ふらつく足で部屋を出る。  部屋同様に、闇に包まれているはずの廊下。  どくどくと早鐘を打つ心臓を堪え、その先を見据えた。  途中にある扉から漏れる明かりに、大きく目を見開いた。  ふらふらとした身体は壁を伝い、必死でそこへ向かおうとする。 ――――『聖司くん』  もう一度頭の中で声がした。  もつれる足は、どたどたと音を立てて廊下を進む。  止まりそうになる心臓を覚悟して、リビングの扉を、倒れこむ身体の勢いで力任せに開け放った。
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