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「シャワーありがとう」
上気した頬と濡れて乱れた髪のまま戻ってきた聖司に、成美の目はどうしても惹き付けられる。
ちゃんとシャツは着ているのに、覗く首筋と朝というのが、なんだかイケないことをしているような気にさせる。
タオルで頭を拭く聖司に見惚れて、呆けてしまった。
「服、乾いてた?」
「うん。わざわざ洗濯してもらってごめんね。ありがとう」
「ううん。昨日と同じの着るの嫌だろうし」
「優しいね、杉崎さん」
ときめく胸を悟られないよう、平然を繕いながら彼に着席を勧める。
いつもは誰も居ない向かい側の席に、美しい男が座ると、慣れない緊張と喜びで、心臓がやぶけてしまいそうだ。
「手料理なんて、何年ぶりだろ」
「え?」
「一人暮らし始めてからは、ずっと外食か出来合いの飯ばっかりだったから」
「そうだったんだ……」
「愛情のこもってる料理って、やっぱり美味しい」
卵焼きを頬張る彼の、嬉しそうな表情を見つめる。
(今まで、彼女に作ってもらったりとかなかったのかな……)
これだけかっこ良くて、優しくて、知的な彼を、周りの女の子が放っておくはずがないのに。
(もしかしたら……)
直感で思い当たる節に、小さな胸の痛みを感じた。
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