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卵焼きに向けた箸先を見つめる。
頭を過ったのは、数年前に招待されたとある結婚式の情景だ。
純白のウェディングドレスを纏った美咲の儚げな笑顔を思い出す。
(もしかしたら新田くんは、今まで彼女を作れなかったんじゃないのかな)
誰が言っていたのかはもう忘れてしまったけれど、“美咲が新田を捨てた”という出処のわからない噂が思い起こされた。
美咲と別れたあと、彼はずっと独りだったのかもしれないという勝手な憶測で、目の前の笑顔に少し侘しさを感じた。
(でも……)
思いに耽ける成美の身体が、また昨夜の聖司の行為を思い出す。
愛撫する指。辱しめる舌。
オンナを熟知し、快感のポイントを完全に見極めて、存分な快楽を与えてくれた。
繋がるときも彼はちゃんと成美の身体を労ってくれていたし、そして多幸感溢れる時間をもたらしてくれた。
そんな彼がずっとひとりだったなんてことはあるはずがない。
特定の恋人を作らなかっただけで、聖司と大人の関係を持つ女性はいたに違いなかった。
成美はきっとその女性達のうちのひとりなんだろうと気持ちがくすむ。
「杉崎さん、料理上手いんだね」
「え!?」
勝手に気分を落としていたところで、突然声を掛けられた。
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