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驚きに可笑しな声を上げてしまった成美に、一度ぱちくりと瞬いた聖司はすぐにふわりと微笑んだ。
「こんな美味い和食作れるなんて、凄いな」
「そんなことないよ」
「味付け、凄い旨いよ。コンビニの弁当なんか食えなくなる」
「大げさだよ……」
「本当だよ。また食べたい」
いつの間にか全部を平らげていた聖司は、「ごちそうさまでした」と手を合わせた。
「もっ、もしよかったら……」
「ん?」
湯気立つほうじ茶に口をつけた聖司に、成美は突発的に思い付いたことを口にする。
「夕飯だけでも、作りにいこうか?」
にわかに彼の動きが止まり、図々しい申し出にすぐに後悔が襲った。
(家に押し掛けるようなこと言われても困るよね)
湯呑を下ろした聖司の言葉を待つ胸がぎゅっと怯える。
そういうのは面倒、だとか思われたりするのではないかと、箸を持つ手に無意識に力が入った。
けれど、彼がくれる言葉は思ってもみないことだった。
「誰かにご飯作りに来てもらうなんて、そんなこと今まで考えたこともなかった」
「え……?」
男性であれば、彼女の手料理は食べたいと思うのが普通だと思っていたけれど、聖司はそう思ってこなかったと言う。
憶測でしかないけれど、恐らくモテるであろう聖司の為に、手料理を振る舞いたい女性だって少なからず居たはずだ。
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