堕ちる夜

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「今まで彼女とかに作って欲しいって言わなかったの?」  あまりに意外過ぎて、思ったことがそのまま口から出てしまった。  不躾なことを言ってしまい、失礼な女だと嫌われたりしないかと焦った。  そんな成美を、聖司はきょとんと見つめてくる。 「彼女なんて居ないよ、ずっと。だから、そういうの頼める人なんて居なかったんだ」 「う、嘘……」 「本当。杉崎さんに嘘ついてどうするの」  クスクスと笑い再び湯呑に口をつける聖司を、今度は成美がじっと見つめた。  こんなに美麗な男に、恋人がいなかったなんてことがあるんだろうか。  言い寄る女ならいくらでもいそうなものなのに。  それでもずっと独り身だったのだというのであれば、やはり聖司は恋人を“作れずにいた”というほうが正しいのではないかと成美は思った。 「ああでも、ほとんど夜間で入ってるからな。夕飯って言っても、俺、帰りめちゃめちゃ遅くなる。食べられるなら、毎日でも食べたいのに」  首を傾げて悩む聖司は、本当に成美が食事を作りに行くという提案を受け入れているようだ。 「塾講師って大変なんだね、夜遅くまで勤務あって」  聖司は大学時代にアルバイトで始めた予備校で、卒業後も正式に塾講師として働き始めたのだと言っていた。     
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