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「食べたよ。あんまり美味しくない弁当」
夜間の授業に入っているときは、いつも夕方の休憩時に夕食を採っていた。
二日前に食べたあの朝食の味が忘れられなくて、コンビニでつい手を伸ばした冷めた和食の弁当。
温めてもらったけれど、思い描いていた味とは似ても似つかない素っ気ない味で、つまらない夕食を済ませた。
「じゃあ、あとは家に帰るだけだね」
「ああ、まあね」
とても温かな食卓を作ってくれた彼女の顔が、ふと胸を過った。
「今日……お泊まり、したいな」
梓は聖司の胸を撫で、その手でジャケットのポケットに手を入れた。
ちゃり、と金属の擦れる音がする。
「お家の人が心配する」
「大丈夫、友達のとこ泊まるって言う」
「俺、お巡りさんのお世話にはなりたくないんだけど」
「梓もう高校生じゃないよ」
「未成年でしょうが」
「てか、そんなの今さらだし」
艶々に爪を手入れした指が、車と家の鍵のついたキーリングをくるりと回した。
「車で、待ってる」
頷きもしない聖司は、梓の指に囚われるキーを諦めたように見る。
こんな風にされるのは、もう何度目だろう。
この子の強引さには、聖司もなぜか振り回される。
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