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梓が退室してから、聖司は個別指導室のブラインドを下ろす。
黒の窓をシャラシャラと降りるブラインドで白く変えていると、残り半分に背後のドアが開いていくのが映った。
「お疲れさま」
聞き覚えのある上品な声に振り返ることもせず、聖司はブラインドを下ろしきる。
無言で振り返ると、すでに狭い個室に入ってきていた女と、目があった。
「今日は新田先生が戸締まり当番?」
「ええ」
聖司はその女に、素っ気なく答えた。
長い髪をサイドにまとめたスーツ姿の女性。
短いタイトスカートの下で艶かしい足をクロスさせ、扉に寄り掛かる。
机のファイルを抱えて、遠巻きに距離を取りながら、
「……そこ、いいですか?」
通せんぼをしている女に、溜め息混じりに言った。
「ずいぶん急いでるのね。女の子でも待ってるの?」
その問いに、聖司は答えない。
目を合わせず扉に歩み寄ると、苛立ったように掌で扉を叩き、女に影を作った。
威嚇を見せる聖司に物怖じすることなく、女は穏やかに微笑む。
「ね、聖司……」
馴れ馴れしく呼び捨てる女は、聖司の胸元にそっと掌を当てた。
「……今夜……」
するすると下降する細い手が、スラックスに辿り着く。
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