見せない心

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「これから誰かしら呼ぶんでしょう? この建物はあなたの所有物だ。逢い引きに使うなら戸締まりはご自分でなさってください」 「あら……アタシのこと、なんでも知ってるのね。惚れ直しちゃう」 「……お疲れさまでした」  聖司はうんざりした顔で扉を開ける。  この女とは、もう関わり合いたくない。  傲慢なオーナー夫人のお遊びに付き合わされるのはまっぴらだ。  本郷香澄(ほんごうかすみ)。  この予備校のオーナー夫人であり、校長である。  聖司がバイトとして働いていた学生の頃からお世話になっている、今でも現役の講師だ。  聖司は学生の頃から、香澄にたいそう気に入られていた。  人柄も、……身体も。  聖司は振り向きもせず、香澄を部屋に残したままそこをあとにする。  彼女は今でも、ああやって聖司を誘ってくる。  しかし、聖司はもう二度と、彼女を抱く気にはなれなかった。
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