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電気の消えた各教室を見回り、一応の戸締まりは確認する。
誰もいない職員室に戻ると、自分の机で帰宅の準備をした。
机の上で鞄を開けると、仕舞っていた携帯に受信のランプが光っていた。
何気なくそれを確認すると、受信メッセージの相手の名前に、胸が小さな鼓動を転がす。
【お疲れさま。今度の夕飯、何食べたいか決まりましたか?】
少しだけ敬語がよそよそしい成美からのメッセージだった。
彼女のふわふわとした温かな空気が、聖司の心を過ったような気がする。
眉間にシワを寄せていた目元が、つい綻んだ。
約束をしたのは次の日曜日。
その日彼女は夕方までの早番。
聖司は彼女の仕事終わりまで図書館に居るつもりで、それから一緒に聖司の家に向かうことになっていた。
【お疲れさま、遅くなってごめん。ハンバーグが食べたい】
彼女は携帯を前に、聖司からの返事を待っていたのだろうか。
送ったメッセージはすぐに読まれたらしく、光の速さで返信が来る。
【了解しました】
くすりと笑うような絵文字と共に。
あと一日我慢すれば、旨い食事が食べられる。
聖司は無意識にニヤける顔に気づき、慌てて掌で口元を隠した。
なんとなく軽い足取りで職員室を出る。
自然といつもの癖でポケットを探ると、キーが無いことに気づく。
(そういえば……)
梓の指に回るそれを思い出した。
途端に、廊下を進む足が鈍くなる。
あの温かな食卓を囲う空気が、あっさり胸の中から払い除けられてしまった。
なぜかとても虚しさが心を覆い、聖司は気落ちした。
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