見せない心

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*  電気の消えた各教室を見回り、一応の戸締まりは確認する。  誰もいない職員室に戻ると、自分の机で帰宅の準備をした。  机の上で鞄を開けると、仕舞っていた携帯に受信のランプが光っていた。  何気なくそれを確認すると、受信メッセージの相手の名前に、胸が小さな鼓動を転がす。 【お疲れさま。今度の夕飯、何食べたいか決まりましたか?】  少しだけ敬語がよそよそしい成美からのメッセージだった。  彼女のふわふわとした温かな空気が、聖司の心を過ったような気がする。  眉間にシワを寄せていた目元が、つい綻んだ。  約束をしたのは次の日曜日。  その日彼女は夕方までの早番。  聖司は彼女の仕事終わりまで図書館に居るつもりで、それから一緒に聖司の家に向かうことになっていた。 【お疲れさま、遅くなってごめん。ハンバーグが食べたい】  彼女は携帯を前に、聖司からの返事を待っていたのだろうか。  送ったメッセージはすぐに読まれたらしく、光の速さで返信が来る。 【了解しました】  くすりと笑うような絵文字と共に。  あと一日我慢すれば、旨い食事が食べられる。  聖司は無意識にニヤける顔に気づき、慌てて掌で口元を隠した。  なんとなく軽い足取りで職員室を出る。  自然といつもの癖でポケットを探ると、キーが無いことに気づく。 (そういえば……)  梓の指に回るそれを思い出した。  途端に、廊下を進む足が鈍くなる。  あの温かな食卓を囲う空気が、あっさり胸の中から払い除けられてしまった。  なぜかとても虚しさが心を覆い、聖司は気落ちした。
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