見せない心

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 そうやって放置されることも、梓は好んでいる。  気乗りのしない今の聖司には、その嗜好は都合が良かった。 「ふぁ……っ、ぁんっ、やぁ……っ」  梓は自分をくちくちと弄る。  いやらしい喘ぎ声と卑猥な水音。  それをBGMのように聞き流す聖司は、ドアに肘を掛け、片手で軽くハンドルを操作していた。  聖司は、少し苛ついていた。  現況は、香澄だ。  あの女の病的な性欲には、虫酸が走る。  かつて、自分が彼女のそれに溺れていたことが、人生で一番の汚点だった。 (仕方なかったと言えば、そうなんだろうけど……)  10も年上の女性に優しくされて、あの頃の自分が酔わないわけがなかった。  今となっては、弱かったあの頃の自分が酷く情けなく、同時に、聖司の女性不信に止めを刺した香澄の仕打ちは許しがたかった。  愛情がひっくり返ったときの憎悪たるや。 (それなのに、俺はまだあの予備校に居る……) 「せ、んせぇ……も……っ」  眉間に違和感を覚えたところで、梓はよがり、一際高まった啼き声を上げた。  その声を最後に、大人しくなった梓は、シートにくたりと身体を沈める。 「せんせ……」 「うん?」 「梓、……上手に、出来た?」 「うん、良かったよ」     
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