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エンジンを切った真っ暗な車内には、ぴんと鳴る静寂の音が耳に障る。
マンション1階の駐車スペースに車を停めると、深々とシートに体を沈めて、聖司は大きく溜め息を吐いた。
(正直、今日は帰して正解だった……)
さっきまで助手席に乗せていた生徒の痴態を思い出す。
降って湧いた苛立ちの所為で、性的興奮を高められないまま、いつも以上に乱暴にしていたかもしれない。
自分に狂暴な部分があるとは、香澄と関係を持つまで知らなかった。
頭を過るあの女の色香溢れる笑みに、聖司は目元を強ばらせた。
最初は、そう。
とても綺麗な人だと思った。
聖司よりも10歳も年上だと聞いたときは、本気で疑った。
大学三年の終わり頃に始めたアルバイト。
香澄は、バイト先の予備校の講師として働いていた。
当時の名前は、一ノ瀬香澄。
人当たりがよく、教師生徒男女問わずに親しまれていた。
聖司にも親切にしてくれて、姉のような人だった。
香澄との関係が変わったのは、大学卒業を控えた頃。
予備校のオーナー理事だった当時の校長に、生徒に親しまれる人柄と頭脳を買われ、春から正式な職員として予備校に勤めることが決まっていた。
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